【本】『高い城の男』
もしも日本が戦勝国なら・・・
第二次世界大戦が終了して70年という節目の時期に,「もしも日本が戦勝国なら」という想像はいささか物騒ではあるのだけど,著者はアメリカ人で,発行が今から50年以上前,ということでお許し願いたい。
この『高い城の男』という小説は,先に書いたように,「第二次世界大戦が枢軸国側(ドイツ,日本,イタリア)の勝利に終わっていたら」という想定で書かれた歴史改変SF小説。
著者のフィリップ・K・ディックは,映画「ブレードランナー」の原作としても知られる『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
』や,あるいは,映画「トータル・リコール
』の原作『追憶売ります(トータル・リコール ディック短篇傑作選
)所収』などで有名な作家・・・と書けば,「あー,知ってる,知ってる」という方も多いでしょう。
この小説では,ドイツ・日本・イタリアの枢軸国側が勝利し,世界はドイツと日本に二分されているという設定になっています。
「易経」がキーワード
この小説がただの「もしも・・・」の歴史改変SF小説で終わらないのが,ひとつには,この小説の中に「もしも,連合国側が勝利していたら」という小説が登場し,しかもその中身が過激であるがゆえに,ドイツが占領している地域では発禁処分を受けているという・・・という設定があることです。「もしも,もしも」を2回やれば今の世の中に・・・は,それがなりません。
その辺もまたディレックの小説の面白さなのでしょう。しかもこの「架空小説」が重要なモチーフである証拠に,タイトルの「高い城の男」は,その小説の作者がいるところ,とされているのです。
そしてもう一つが,「易経」がキーワードになっていること。出てくる人物は何かことあるごとに「易占い」をし,行動の指針にしたり,これから起こることに備えていきます。
感心するのは,アメリカ人が「易経」をSF小説に取り入れていること,それも,少しでも「易経」を勉強したことがある人ならわかりますが,適当に切り張りした・・・とは思えないレベルで「易経」を組み込んでいるところです。
その辺りは後書きでも解き明かされますが,かなり本格的に取り組んでいたようです。
個人的には久々に翻訳もののSF小説を読んだので,ちょっと慣れないところはありましたが,それなりに十分楽しめる小説でした。たぶん,2回,3回と機会があれば読み直すこともあるだろうなと思っています。
2015年(今年),ドラマ化されるという話もあるようです。
またいずれ話題になることもありそうです。
映像化される前に読んでおくのも楽しいのではないでしょうか?
関連記事
-
-
【本】ボールジャグリング百科
ジャグリングの独学は結構辛いもの ボールジャグリングに興味を持ったものの,身近に指導者がいるわけで
-
-
【本】リサ・ランドール 異次元は存在する
NHK「未来の提言」から 2007年5月発売ですが,おそらく放送自体は2005年ではないかと思いま
-
-
【易経】「音読まとめ(2周目)『坤為地』」
『易経』音読まとめ(その4)2周目 前回の『易経』音読まとめ(その3)2周目では,『乾為天』につい
-
-
【天文】皆既月食を観測しよう
3年ぶりの皆既月食 明日,10月8日は,3年ぶりの皆既月食が全国で見られます。 石垣島より西では
-
-
【易経】『リーダーの易経』
龍の物語で読み解く『易経』の入門書 待ちに待った新刊 易経研究家の竹村亞希子先生の最新刊が出まし
-
-
【おススメ】LEDミニ・マグライト
夜の散歩に欠かせないお供が懐中電灯。 飼い犬の散歩などでお使いの方もいらっしゃるでしょう。
-
-
【本】【雑感】芥川賞
芥川賞受賞作品『火花』の増刷 ラジオを聴いていると,芥川賞を受賞した『火花』(又吉直樹著)がさらに
-
-
【中つ国】THE ART OF THE LORD OF THE RINGS
久々に「中つ国」ネタ 最近,このブログに書くことといったら『易経』か,それに関連して東洋思想だった
- PREV
- 【本】『男の風格をつくる論語』
- NEXT
- 【映画】『インサイドヘッド』
