【本】『人生と陽明学』
安岡正篤活学シリーズ
PHP文庫の活学シリーズの第2弾に当たるのが,この『人生と陽明学 (PHP文庫)』です。
安岡先生が,大学在学中から書き綴ったものが『王陽明研究』だったところからもわかるように,先生にとって縁の深い陽明学についての講話集です。
PHP文庫の活学シリーズは,『活学としての東洋思想』に始まり,この『陽明学』が続き,『論語に学ぶ』でまとまります。順番がバラバラではありますが,それぞれの感想は拙ブログにも書いたところです。
『陽明学』の入門に
『活学としての東洋思想』は,東洋思想という大きなものをテーマに縦横無尽に語られているので,難しいところも多々有ります。
『論語に学ぶ』は,もちろん『論語』に関するものなので,多くの人がそれなりに親しんでいることもあるものです。
ではこの『人生と陽明学 (PHP文庫)』はどうかというと,『陽明学』というものを知るのに,『論語』などと比べて入り口が少ない気がします。
そういう点で,この本は,『陽明学』とはどんなものか?を見通すのに非常に適した入門書と感じます。
講話録ですので,非常に読みやすく,先生の語りに引き込まれているうちに読了します。
ただ・・・うかっと読んでしまうと,さらさらと進んでしまって「なんのことだったか?」となりかねない危険性もあります。
一言一言を大切に読み進めると,そこかしこに深い洞察や見識が滲み出てき,気づかされることも多々あるのです。
縁尋の機妙
わかりやすいところを一部転載引用することで,ご紹介したいと思います。
「王陽明の人と学 抜本塞源論を中心として」の章の中に「縁尋の機妙」と題された一節があります。この「縁尋機妙」は大変大事な言葉で,私も常に心していた言葉です。
(以下,『人生と陽明学(PHP文庫)』p43-44から引用)
人間の縁の広がりによる働きの不可思議なことは到底浅はかな智慧では計り知るべからざるものがございます。これを専門的な言葉で縁尋の機妙と申します。例えば古本屋へ立ち寄ってもそうであります。平生勉強しておらなければ何も目につきませんが,何か真剣になって勉強しておる時には,何千冊竝んでおっても,それに関連のある書物は必ずぱっと目にうつる。これが所謂縁尋というものです。
だからそれが目にはいらないというのは,自分が呆けておるか,真剣に勉強しておらない証拠である。これは事業をやるような場合でも同じことでありまして,だれか自分を助けてくれる者はおらぬか,と本気になって人材を求めておれば,いつか必ず誰かにぶつかるものであります。だから一生友達を持たぬなどという人間は,余程の馬鹿か,鈍物でありまして,これは真剣に生きておらないという一つの証拠であります。
(以上引用終わり)
これまで「縁尋機妙」という言葉について,今,得られている縁に対する感謝の気持ちの面でのみ捉えていたことに気づかされました。
これからの縁を得るも得ないも,すべて「真剣であるかどうか」にかかっておるわけです。
最近,東洋思想に関する本から遠ざかっていたところ,何かのきっかけで『活学シリーズ』の3冊を読み直すこととなりました。そのことで,また「縁尋機妙」という言葉の本当の意味を気づき直すこととなり,またそのことが「ちゃんと真剣に取り組んでいたか?」と問い直すきっかけとなりました。
きっかけがきっかけを生む。まさに縁尋機妙とはこのことなのであります。
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